上代から中世にわたる通時的な視点に立ち、古典語の形容詞・形容動詞語彙について、語構造論および造語論の両観点から分析を行い、一つ一つの語の語構成を記述するとともに分類を行い、その一方で、語彙表を作成する、さらに、「形容詞の語構成史」および「形容動詞の語構成史」を構築し、従来の研究方法では得られなかった知見を探求することが本研究の目的である。 今回は、まず、中世後期の形容詞を概観する資料の一つとして昨年度取りあげた『時代別国語大辞典 室町時代編』に続き、『邦訳 日葡辞書』を取りあげ、本辞書で使用された形容詞の見出し語に焦点を当て、これまでに公表した資料ですでに使用されているか否かを対照できる形で語彙表にまとめた。 次に、中世後期から近世にかけての資料として、①キリシタン資料(天草版平家物語・天草版伊曽保物語・日葡辞書)、②狂言(天正狂言本、狂言六義、狂言記、虎明本狂言集、虎清狂言本)を取り上げ、これらの作品で使用された形容詞を採取し、それらの形容詞の語構成分析を行い、形容語の一つ一つについて、語構成分析情報(語構造論的分析情報・造語論的分析情報)を配し、それぞれに分類コード付けを行った。さらに、これらの語構成分析情報と使用頻度の情報等、すべての情報を入力し、データベースの更新を行った。 その一方で、「形容詞の語構成史」を構築するにあたり、形容詞の造語力の変遷との関連をみるために、中古散文作品に見られる複合動詞のうち、動詞由来の接頭辞を持つものに着目し、通時的な観点から分析・考察を行った。その結果、特定の動詞由来の接頭辞をもつ動詞がある時期を境に大きく造語力を発揮することが確認された。
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