法令中のサ変動詞の変異を解明するには、何をおいてもその内的条件(文法的・音韻的条件付け)を明らかにする必要がある。大きな影響力を持つと考えられる動詞の後続環境を取り上げることとして、五段化に関わる動詞(=田野村(2001)のB類)4語、上一段化に関わる動詞(=田野村(2001)のC類)4語の用例を法令データ提供システムから抽出し、後続要素による分類を行い、詳細な検討を加えた。その結果、それぞれの動詞とその後続環境は、(1) サ変と五段・上一段型活用で変異が見られるもの、(2) サ変型活用形のみが出現するもの、(3) 五段・上一段型活用のみが出現するもの、(4) まったく用例が出現しなかったもの、の4つに分類されることが分かった。十分な用例数が取れた場合に限定して田野村(2001)の結果と比較すると、変異がない環境においてはほぼ一致するものの、場合によってはまったく相反する結果が出た箇所も見られた。この乖離については今後検討が必要である。 なお、この調査過程において、法令文書の改正履歴を追うとMWE (Multiword Expression) の形成過程が把握できそうだという感触を得た。これは改正や新法作成の際に、既存の法令から部分的な字句のコピーを繰り返すうちに固定表現化することによるものと考えられ、今後の有力な研究課題になると予想される。内的要因の検討については、松田(2013)として論文にまとめた。 さらに、国立国語研究所で進めているサ変動詞の変異・変化の全国調査において、法令における状況との比較検討を行った。これについては、現在論文を執筆中である。 立法実務における既存法令の扱いについて調査すべく、参議院法制局の現職職員から聞き取り調査を行った。これについては、まだ論文にまとめられていないが、さらに聞き取りを進めた上で今後の研究にデータとして投入する予定である。
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