この研究プロジェクトは、過去の法令と言語をめぐるアプローチとは異なり、法令を言語データ(コーパス)と見なして言語変化・変異の観察を行い分析することで、法令の言語データとしての特質やその可能性を見極めようとしたものである。具体的な変異現象として先行研究の多いサ変動詞の五段化・上一段化現象を取り上げた。法令データを分析すると、その分布は先行研究の結果と似たものであり、法令データでも他種類と同様な変異が存在することが確認された。また同年に公布された法令間、また同一の法令の中でも同一動詞についてサ変~五段・上一段という活用のゆれが存在することが明らかとなった。次に改正履歴を追跡するために、改正履歴が追跡可能な法令データベースを用いて過去10年間におけるいくつかのサ変動詞の動向を調査した。その結果いくつかの動詞で変化が年とともに進行する様子を明らかにすることができた。これらの結果からは、この変化が法令作成に携わる関係者の意識下で進行する、「下からの変化」であることが分かる。また、内的要因を分析してみると、少なくとも五段化では、先行研究で主要な制約条件とされてきたものがそのまま当てはまることが判明した。
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