研究概要 |
本研究の目的: 右方転移(right dislocation)等の等位構造以外が関わる右方移動現象の理論的・実証的研究に基づき、句構造の非対称性・線形化と構造的依存関係のメカニズムを解明する。 本研究の具体的内容及び意義・重要性: [1] 右方転移文の派生に対して、複合名詞句制約・関係詞節の島の条件、付加詞条件、等位構造制約、前置詞を残留させることを禁じる条件に従うが、上方制限が課されない、主節現象である、残余代名詞が生じる場合があるという右方転移の諸特性に基づき、動詞句前置/残余句移動等の左方移動(leftward movement)規則の適用により生成されるとする移動分析と削除 (deletion) に基づき導かれるとする「省略文」+「繰り返し文」に基づく分析のいずれかではなく、移動と削除に基づく分析が必要であることが明らかにされた。 [2] 久野(1978)、高見(1995)、江口(2000)、中川・浅尾・長屋(2007)やNakagawa, Asao and Nagaya (2008)、綿貫(2012)等の先行研究を批判的に検証し、右方転移要素が旧情報を担っている場合のみならず、新情報を担っている場合が存在し、情報構造上、2種類の右方転移文が存在することが指摘された。[3] 2種類の右方転移文の構造は、単節構造と複合節構造とで異なるが、移動のメカニズムが係わる言語現象であり、「右方転移要素の前にポーズを伴わない場合」は単節構造に移動規則が適用されて導かれ、「右方転移要素の前にポーズを伴う場合」は複合節構造を構成し、後続する繰り返し文内の移動と削除に基づき生成されることが示された。[4] 主語名詞句や属格名詞句の右方転移が可能であり、右方転移文を派生する際の左方移動規則が、かき混ぜ(scrambling)であるのかに関して、更に詳細な研究が必要であることが示された。
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