本研究の目的は、言語の統語現象のさまざまな場所で見られる段階性・ファジーな性質について、統語構造として平行的な多重構造を仮定することにより、これまで考えられていなかった新しい種類の段階性を開拓し、理論化することにある。ここでの構造的な多重性とは、派生の段階・レベルとしてではなく、文がその統語構造として複数の構造を同時平行的に持ち、それらの構造が相互に影響を及ぼしあうという仮説である。そのような統語構造の多重性が文法のさまざまな部分で見られるファジー性・段階性とどのように係わっているのかを明らかにするとともに、多重構造が統語論において果たす役割を実証的に示すことを目的とする。 22年度においては、伝統文法・生成文法・認知言語学においてこれまでなされてきた研究の中から、特に本研究の目的の対象となる段階性・不確定性を含む統語現象に関する記述を抽出整理し、その理論的・経験的問題点を明確化する作業を行った。 具体的な研究成果としては、受動化における従来の統語的観点を中心的な条件とした分析に対しての批判を行った。GB理論の枠組みにおける受動化の分析は極小主義の、考え方においては保持できないこと、抽象格と統語構造に訴えることができない種類の受動化の例があること、および、受動化における統語的条件の果たす役割は従来考えられていたより制限的であることを指摘し、受動化の条件として意味的側面がより強く関わっていることを示唆した。
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