本研究の目的は言語のさまざまな統語現象において観察される段階性・ファジーな性質について、統語構造として平行的な多重構造を仮定することにより,これまで考えられていなかった新しい種類の段階性を開拓し、それを理論化することにあった。ここでの構造的な多重性とは、派生の段階・レベルとしての異なった表示ではなく、文がその統語構造として複数の構造を同時平行的に持ち、それらの構造が相互に影響を及ぼしあうという仮説である。そのような統語構造の多重性が文法のさまざまな部分で見られるファジー性・段階性とどのように係わっているのかを明らかにするとともに、多重構造が広く文法において果たす役割を実証的に示すことを目的とした。 平成24年度においては、引き続き生成文法においてこれまでなされてきた研究の中から、特に本研究の目的にとって関係の深い段階性・不確定性を含む統語現象に関する記述を抽出整理しその理論的・経験的問題点を明確化する作業を行うとともに、段階性を示す文法項目について教育面での応用ということをも視野に入れて考察を進めた。 具体的には、文法事項の配列については「基本的なものから発展的で高度なものへと順次配列する」という原則を立てることは意見の一致するところであろうが、教材配列についてその観点から考えた場合、現行の中学校英語検定教科書にはさまざまな問題点が存在する。それらについて具体的に検討し、改善の方向性を示唆した。
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