研究課題/領域番号 |
22520492
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 明 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 准教授 (70265487)
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キーワード | 生成文法 / 素性 / 数 / 人称 / 一致 / 極小主義 / 形容詞 |
研究概要 |
昨年度手をつけたフラニ語の人称と数の相互作用について、他の素性との組合せから値が予測可能である素性を形態演算において削除/省略できるという説を提唱し、学会でのポスター発表(以下3ページ目参照)を行った。論文としてもまとめ、国際学術誌に投稿した。現在、審査中である。 また、大学院のセミナーを軸としておこなった名詞修飾の形容詞の用法の問題整理の過程で、国籍や材質を示す修飾要素が、英語と異なって日本語では形容詞ではなく名詞の形のままで用いられるにもかかわらず、構造上は英語の形容詞などと同様の統語構造に出現することを発見した。さらに、日本語では国名や物質名そのものが名詞として修飾要素になるため、それが出自や材質であることを明示する役割が名詞修飾を可能にする機能範疇に求められることをはじめて立証することにも成功した。これは、小論としてまとめ、国際学術誌Linguistic Inquiryに投稿、受理された。校正も終え、2012年中に掲載されることが決定している。 この他、人称と数がかかわる一致のメカニズムのあらたな理論についてのアイデアも得ることができた。これは、フラニ語の研究の結果として、人称の素性はすべてプラスとマイナスの二項対立として表示されるという結論が得られたことにも立脚しているが、より積極的に支持する根拠が発見できそうな領域として、数の素性に立ち戻っての検討を今後予定している。英語において同じ-sの接辞が名詞では複数を示し、動詞では(三人称の)単数を示すという対応関係が、単なる偶然ではなく、一致のメカニズムが可能にしているオプションの一つであるということが、新しい理論のもとでは自然に説明できるからである。観察自体はチョムスキーのLSLTでなされていたが、これまでまともに取り上げられることがなかった。新理論のポテンシャルを十分に示しているといえよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
23年度に予定していた課題について論文として発表するに値する成果が得られた上に、今後のあらたな方向性や可能性までが明確になってきたことは、プロジェクトを立ち上げた当初期待していたよりはるかによい形で研究が進んでいることを意味する。
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今後の研究の推進方策 |
統語演算における一致のメカニズムという根本理論の構築に手が届くところまで2年目の段階で進展したことは、望外の結果である。これを軸としつつ、統語演算のアウトプットと形態論との関係にメスを入れ、また、いわゆるassociativeの複数など、応募時に掲げながらもまだ手をつける余裕がなかった部分にも展開していきたい。
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