研究課題/領域番号 |
22520492
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 明 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (70265487)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 「1」の省略 / 計量単位語 / 統語演算における一致 |
研究概要 |
「二百」などと比べて「百」というように「一」の意味が意図されていても「一」をつかわないことが「百」などのような数の単位に見られることはよく知られていたが、計量単位語が割合を示すために使われる場合(「週に三回の会議」)にも同様の現象が見られることに着目し、数の素性による分析を試みた。この現象は形態的な交替(「週」対「一週間」)を伴うこともあるので、数詞が使われる場合とそうでない場合では異なった素性が関与していることを直接的に示していると言える。この成果は学会での招待講演で発表し、いずれ議事録として出版される予定である。 また、統語演算における一致のメカニズムに関する課題は、一致が単純な削除操作であるとすれば、Harbour 2011が別々に扱っているカイオワ語とヘーメス語の名詞に見られる類似した現象を統一的に分析できる、という成果を得た。これは、逆数、とでもいうべき珍しい現象で、名詞の本来持っている数の(素性の)値と逆の意味が意図されているときに余分な接尾辞があらわれるというものだが、Harbourの分析では、ヘーメス語については、そのような性格付けが分析上できていなかった。あらたに提案した一致のメカニズムのもとでは、ヘーメス語についても逆数の本質を捉えることが可能になる。この成果は、別の学会での招待講演で発表し、議事録として出版される予定である。 この他、昨年度国際学術誌Linguistic Inquiryに投稿していたフラニ語についての論文の改訂を行い、受理された。また、初年度に行っていた「高さ20メートル」のような表現で見られる日本語の意味特性についての研究は、昨年度国際学術誌Journal of East Asian Linguisticsに投稿していたが、今年度、形容詞と名詞での統語構造の違いについての議論を付け加えた形での改訂を行った末、受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人称と数の素性の両方について一通りの成果が出て、一致のメカニズムについてのあらたな提案を含め、普遍文法レベルでこれらの素性がどのように働くかの見取り図を提示できるところまで到達できた。多様な関連する現象が存在する中で、基本となる部分を捕捉し得たのは、今後、さらなる細部に分け入るときの礎を築いたと言ってもよかろう。 また、形容詞が計量単位句と結びつくときの意味解釈についても、これまで認識されていなかった現象が日本語で統語構造に左右される形で観察されることを発見し、その分析を提示したことも、この分野での今後の研究に大きなインパクトを与えるものと予想される。
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今後の研究の推進方策 |
数については、日本語など分類詞を数詞とともに使う言語について、可算/非可算の区別が存在することが依然として認知されていないようなので、それについてあらたな角度から切り込みを入れる。これにより、可算/非可算の区別に関係する重要な現象が従来注目されていなかった領域にもみられることを示す。 また、当初から課題にしていたassociative pluralについては、これまでの成果によって人称と数の素性の観点からは重要度が下がったが、人称代名詞の構造の観点から興味深いことに変わりはないので、その意味解釈も含め、本プロジェクト後半の主たる目標としてアプローチしていきたい。
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