文法化現象に関する研究は、機能主義類型論の立場から行われることが多い。本研究の中心的な課題は、主に英語と日本語の再帰代名詞の文法化現象に生成文法理論の視点を導入することにより、文法化現象の背後にある仕組みを明らかにし、妥当な照応理論を構築することにある。 本研究初年度の平成22年度は、諸言語に見られるself形態素の分布上の特徴について、先行研究に基づいた調査を行った。その結果、(1)英語において、動詞の補部に再帰代名詞の要素としてself形態素が生じる場合とself形態素が複合語の第一要素になる場合とでかなりの程度まで相補性が見られること、(2)古英語におけるself形態素は主に強調用法を持ち、再帰的用法は主に人称代名詞が担っていたこと、(3)日本語において、「自己」が複合語内に生じる場合でも再帰的な機能を持つ場合(例自己嫌悪)と中間態用法に対応する場合(例自己破産)とがあること、(4)名詞句がA位置に生じない性質を持つ言語(例えばモホーク語)においては、self形態素を動詞複合語の要素として用いなければならないことなどを、データを整理しながら確認した。 これらは全て基本的にNoguchi(2010)における提案を支持するものであり、self形態素の意味解釈に普遍的な仕組みが存在する可能性があることを示唆するものである。しかし、再帰形態素の文法化現象を理論的に位置づけるためには、データベースを更に拡大し、理論的考察を行うことが必要であり、この点が平成23年度以降の研究課題となることを確認した。
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