研究概要 |
文法化現象に関する研究は、機能主義類型論の立場から行われることが多い。本研究の中心的な課題は、主に英語と日本語の再帰代名詞の文法化現象に生成文法理論の視点を導入することにより、文法化現象の背後にある仕組みを明らかにし、妥当な照応理論を構築することにある。 平成23年度は本研究の2年目にあたり、研究初年度における現代英語、古英語、および日本語に見られる再帰形式の統語的・形態的・意味的性質に関するデータの整理と理論的課題の整理を踏まえ、近年提案されている照応の枠組みと本研究との関係について理解を深めた。とりわけ、Chomsky(1995)以降の極小主義プログラムに基づく研究(Boeckx,Hornstein and Nunes 2007,Reuland 2011など)を取り上げ、言語研究全般の傾向と照応理論との接点について知見を深めた。その結果、(1)Boeckx他が提唱するMoveのみに基づく照応理論は、経験的に様々な問題を生じさせること(例えば、再帰形式と相互代名詞との相違点)、(2)Reulandの提案するモジュール化された照応理論は、再帰形式を述語に編入する要素と捉える点で本研究と共通した認識を共有し、その意味で理論的に望ましい方向性を示していると言えるものの、提案された文法の一般原理間の相互作用が必ずしも明確にされておらず、(3)同提案では、文法化現象に対して言及はなされているものの、どのような仕組みが背後にあるのかという点が明らかにされていない。 この結果、再帰形式の文法化に関するデータベースを更に拡大し、近年刊行されたRooryck and Wyngaerd 2011なども取り上げることにより、より望ましい照応理論の方向付けを行うなどの理論的考察を行うことが必要であり、この点が平成24年度以降の研究課題となることを確認した。
|