本年度の研究成果としては“(Ir)regularity of Conceptual Expansion in Adjunct Nominals” という題名の論文を執筆(Osaka University Papers on English Linguistics Vol. 15 (OUPEL 15)に近日公開予定)したこと、「名詞の語彙概念拡張と項・付加詞の非対称性」と題する論文を、福岡言語学会および日本英文学会関西支部シンポジウム「言葉の意味・機能の拡張と変容」において公表したことなどが挙げられる。 本研究の大きな目的は、項位置などの構造的に際立ちを持つ位置に生じる参与者が概念拡張の対象として選択されやすく、逆に付加詞に代表される背景化された参与者は概念拡張の対象としては選択されにくい、ということを様々なデータを通じて証明することであるが、特に修飾要素でありながら概念拡張の対象として例外的に利用可能な場合があることについての調査を行った。それは因果関係文脈に認められる名詞句の拡張的解釈であり、この結束関係に特有の認可条件が存在することにその理由を求めることができると考えた。類似関係や近接関係の結束構造においては同様の概念拡張が認められないことから、このような理由付けは支持されるものと考えている。 同時に次の課題として、母語話者の内省直観判断に基づくデータ検証の範囲を超えて、コーパス調査に基づく量的な分析を通じて、様々な名詞表現がどのような意味で使用されているかの実態を突きとめ、その意味分布の有り様を項・付加詞という構造的な生起環境と関連づけて論じるための調査を始めた。その予備的調査内容について、学会の場で口頭発表を行い、フィードバックを得られたことが、非常に有益であった。これはドイツの学会発表で、参加者の母語話者から得られた判断の揺れがきっかけとなって開始した調査である。
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