本年度はMueller-Reichau(2011)(以下MRとする)を基に、非数量的分析が総称文の統一的な理論になりうるかどうかを検討した。Carlson(1977)を始めとする非数量的分析の問題点は、不定単数主語が種(kind)を表せるかどうかという点にある。MRは、それが可能であると主張し、非数量的分析を推し進めている。 従来は、(1)のような例が不可能であることから、不定単数形は種を表せないとされていたが、MRは(2)の例に基づき、不定単数形は種全体を指すことができると主張している。(1) *An owl is widespread. (2) A pumpkin crusher has been invented. 従来の種レベルの述語は(1)のwidespreadのように、種の存在が前提になっているものばかりであったが、種の存在を前提としない、すなわち新しい種について述べる述語であれば、不定単数形は種レベルの述語と共起できるという趣旨である。MRは不定単数形であってもこの新奇性(novelty)条件に従っていれば、種全体を表しうると言う。 ただし、MRに従えば、(3)のa dogも(4)のthe dogも種全体を指し、前者は新しい種、後者は既存の種を指すことが予測される。(3) A dog is intelligent. (4) The dog is intelligent. しかし、総称文として、(3)と(4)の間にはこのような解釈の違いはなく、不定単数主語が種を表すという主張の根拠が失われる。すなわち、MRの主張にも関わらず、非数量的分析の問題点は解決しておらず、総称文の統一的理論として成り立つとは言えない。 年度末には、過去2年間の研究成果も含めて論文「演繹と帰納--総称文のおける数量化について」を執筆し『英語と英米文学』に発表した。
|