本研究は、言語によって異なる脱焦点化現象を比較しながら、脱焦点化に掛る統語的メカニズムを解明することを目的とする。平成24年度は、既に着手している研究を踏まえ、特に英語における短距離かき混ぜ(の欠如)について考察を加えた。イタリア語やスペイン語では、情報焦点が常に文末に置かれる。基底において文末を非焦点要素が占める場合、焦点が文末に現れるよう、イタリア語やスペイン語では、所謂、短距離かき混ぜが適用され調整がされる。情報焦点の位置が文末であることは英語でも多くの場合当てはまるが、それと矛盾する事例も存在する。Zubizarreta (1998)は、英語では、文末の非焦点要素を韻律的に不可視として無視できるとし、短距離かき混ぜによる調整も不要とした。しかし、英語で、なぜ、このような方策が取れるのかは明らかでない。そこで、このような英語の矛盾について、概略、次のような説明を提案する。まず、「句は、書き出し時に範疇標示されない限り、解釈不可能となる」、「句に指定部要素がある場合、指定部要素か句の主要部が句から摘出されなければ、その句は範疇標示されない」というChomsky (2013)の主張を受け入れる。ロマンス語は動詞句(vP)から主要部(v)が摘出されるため、指定部に非焦点要素が短距離かき混ぜされてもvPの標示が可能である。一方、英語はvPからvが摘出されず、指定部に短距離かき混ぜされるとvPの標示ができない。この場合、指定部の位置を占めた要素は脱焦点化を受けるが、「第2」の補部として再分析されると仮定することにより、vPの標示が可能となる。英語では補部が主要部に後続するため、非焦点要素が文末に生起することが説明される。
|