研究概要 |
本年度は、英語の動詞句省略の生起メカニズム(発音されないVPのLF表示の詳細、そのVPが発音されない理由)とその認可条件の同定の試みの中で議論され続けている、"sloppy VP puzzle" (cf. Hardt (1999),Schwarz(2000),Tomioka(2008))と「先行詞を含む省略(ACD)」の2つの現象に焦点をあて、日本語に同じ現象が存在するか、そして、これらの現象が理論的にどのように説明されるのか、に関して調査した。得られた結論/作業仮説は以下の通りである。 1.日本語にも英語と同じsloppy VP現象が見られる。 (1)A教授は、自分が学会に参加する時は弟子達も皆することを期待しているし、自分が学会をボイコットする時もしている。 (「弟子達も皆学会をボイコットすることをA教授が期待している」というsloppyな解釈あり。)この現象の存在は、発音されないVPがpro-VPであることを示すものではなく、談話の中に適格な先行詞を持つ"full VP"の「音形削除説」が維持できる。しかしこの現象の全体像を説明するためには、統語表示でF-markされるcontrastive focusと、G-markされるdiscourse given構成素を区別する必要がある。(cf. Selkirk(2002,2008)) 2.日本語でもACDが起こる。ただし、関係節を含む数量詞句は文頭に移動される必要がある。 (2)a.^*ホームズはロンドン警視庁が調査したすべての事件をした。 b.ロンドン警視庁が調査したすべての事件を、ホームズもした。 これは、動詞句削除の認可条件のうち「削除されるVPとその先行詞が重複部を持ってはならない」という条項が、日本語においては「表層構造」で満たされる必要があることを示している。 (cf.Johnson(2008))
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