研究概要 |
本年度は、英語の動詞句削除(VP-ellipsis, VPE)の認可条件を特定する鍵となる構文のうち、削除される動詞句(VPβ)がその先行詞(VPα)の項の内部に含まれるもの(cf. Kennedy(1994),Sauerland(1998))に対応する日本語文の容認性とその解釈の可能性を調査し、調査結果の分析とその理論的示唆の検討を行った。得られた主な結論/作業仮説は以下のとおりである。 1 英語と同様に日本語でも、VPβがVPαとは異なった「目的語」を持つと解釈される例が存在する。これは一見「VPαを含む構成素αとVPβを含むβは、①重複部分を持たず、②β内でcontrastive focusを持つ部分を除けば同じ意味解釈を持つ必要がある」とのVPE認可条件に違反しているようであるが、Takahashi,S.(2006)の提案に従って「DP内のNPは格付与詞にc-commandされる位置に遅れてmergeされる」と仮定することによって説明できる。 (例1) アテネ軍に破壊/占領された要塞の近くの町iも < ei 破壊/占領 >されたようだ。 2 英語のAntecedent-contained Deletion構文に対応する日本語文において、関係節を含む目的語QPが主部の左に移動される必要があることは昨年度に報告したが、この「かきまぜ」が浮遊数量詞を節内に残す例も容認されることが判明した。従って、昨年度の作業仮説を以下のように訂正する必要がある:この「かきまぜ」が必要なのは、そうしなければVPαがVPβと共に削除されてしまい、VPEの先行詞が発音されない文になってしまうからである。上記①の条項は、日本語でも英語と同様にLF表示に適用されるとの仮説が維持できる。 (例2)(?)[ロンドン警視庁が調査した事件 ej ]iを、ホームズも すべてj < ei 調査 >した。
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