研究実績の概要 |
1 今年度は、昨年度までの調査項目:① 動詞句削除(VPE)文、② 空目的語(NO)文、③ VPEの先行詞が、削除される動詞の目的語に含まれる文、④ 削除の対象となるVPから、VPEの先行詞を含む句を「かきまぜ」によって前置した文、に新たな構文:⑤ Agentive拘束動詞(BV)を主要部とするVPを含む句を先行詞とするVPの主要部が、VPE下で削除される文(例:*Hはその事件を詳しく調べたがSYはしなかった)、⑥ non-Agentive BVを含む、⑤に対応する文、を加え、「紙ベース」での調査と、z-Treeを利用してプログラムしたコンピューター実験を行った。①~④に関しては、コンピューター実験でも、紙ベースの調査と同じ結果が得られた。「英語と同じ『復元可能条件』が課されるVPEが日本語にも存在し、VPE文はNO文とは異なる構造を持つ」との主張を支持する追加証拠が得られたと言える。 2 構文⑤と⑥に関しては、予想外の実験結果が得られた。ともに「不適格」であると判定されるとの予測に反して、有効反応トークン各80個中、「適格判定」:「不適格判定」比はそれぞれ⑤77%:23%、⑥33%:67%であり、両者には有意差(χ2=11.832(df=1), p<.000)があった。この結果は、「⑤の2つ目の節が『軽動詞「す」の修飾句が削除された構文である(例:Hはその事件を詳しく調べたがSYは[その事件の詳しい調査を]しなかった)』との構造分析を許す話者がいる」と考えれば説明できる。軽動詞「す」を修飾できる句は、Agentive動詞を含むものだけだからである。 3 この仮説が正しければ、Agentive動詞を含む①タイプの実験文の2つ目の節も、軽動詞構文であると解釈された可能性があることになるが、1の結論はnon-Agentive動詞を含む実験文への反応によって維持できる。
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