1.平成24年度前半は平成23年度に収集した学習・教授資料の分析と精査を行うと共に、並行して収集を継続した。聴覚障害者が学習するという場面に視点を設定し、指導方法・学習項目・内容・記述に無理がないか否か多方面から検証した。検証は主に、視覚的効果に着目して行われた。日本語クラスの構成として、「聴者の中に一人、または少数の聴覚障害留学生」、「クラス全員が聴覚障害を持つ留学生」などいくつかのパターンが考えられる。本研究では一貫して全員が聴覚障害を有するクラスを想定して検証した。検証の結果、著しく不都合、不適切なものは認められなかった。 2.平成23年度に一部着手した、障害当事者のアイデンティティ・ろう文化の視点を取り込んだ「日本事情」シラバス開発を継続して行った。中国出身の聴覚障害留学生を被験者として、相対的・複眼的視点からカリキュラムを構成した。伝統芸能鑑賞を軸に、発展的に「日・中」「聴者・ろう者」双方の文化・教育を取り上げる内容とした。全体は3ユニットから成る。ユニット1:手話狂言、手話落語を鑑賞し、日本の伝統芸能に中国由来の原話モチーフが使われていることを確認する。ユニット2:伝統芸能が手話によって演じられていること、その歴史などを確認する。ユニット3:日本の中等教育国語科における漢文教育を糸口に日本の教育内容、学校教育体系について理解を深め、中国の教育との異同を考察する。 被験者は日本の教育について来日前に形成された一定の負のイメージを持っていたが、日本の学校教育体系・内容について理解を深めた結果、日中双方の教育文化について客観的に見る視点を得た。 3.2012年日本語教育国際研究大会(名古屋)において成果の一部を発表した。 4.中国・韓国出身の聴覚障害留学生への日本語指導担当者から研究全般への評価を受けた。
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