本年度は、多言語多文化キャンパスに必要なリテラシー能力に関するこれまでの研究結果をもとに、英語で研究活動を行う初級日本語学習者、及び日本語で研究活動を行う上級日本語学習者に対する教育への示唆をまとめた。 英語で学位取得を目指す留学生は、論文や学会発表には日本語能力が求められていないが、研究室で日本人学生と関係を構築し協働的に研究を進めるためには、研究室の習慣や行事の意味を理解した上で適切な行動が取れる社会文化能力、雑談などの日常の会話を円滑に進めることができる日本語能力や社会言語能力が必要であった。そこで、本研究では、彼らに求められるリテラシー能力を1年間で効率よく教育するためのプログラムを開発した。このプログラムは、初級日本語クラスにおいて話題や相手、コミュニケーションのタイプ等をもとに体系化した会話活動を軸として相互行為的に会話を構築できる能力を養成するものである。そこには、大学で求められる社会文化能力、社会言語能力の養成も取り入れた。 日本語で研究活動を行う日本語上級レベルの留学生には、日本語母語話者と良好な関係を構築するための社会言語能力、また学習や研究を進める中で行われるグループ討論に参加できる日本語能力や社会言語能力の必要性が特に高かった。そこで、こうした能力を養成するための教育への示唆を得るために、特に関係を損なう可能性が高いと思われる接触場面や、日本人学生、留学生がそれぞれの母語で実際に行ったグループ討論場面のデータを収集し、これらの分析を通して日本人学生と日本語上級レベルの留学生が円滑にコミュニケーションを進め、相互理解を深めるために留意すべき点を具体的に示した。
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