22年度は二つの研究を実施した。一つ目は、中国語母語話者による日本語の「着点を表す後置詞を伴う動作動詞」の習得を調査した。中国語はこの領域で日本語型(ジョンは家に走って入った)と英語型(John ran into the house)の両方を許容する、「中間型」の言語である。中国話者のデータを以前収集した英語話者のデータと比較したとろ、中国語話者は英語話者ほど英語型の文(?*ジョンは家の中に走った)を容認せず、逆に、日本語型の文(ジョンは家の中に走って入った)は、英語話者より容認度が高いことが明らかになった。中国語話者と英語話者の間に母語の違いにそった差が見られたことは、動詞の項構造の第二言語習得における母語の影響の新たな証拠として意義深い。 2つ目は、日本の中学生、高校生、大学生を対象に英語受動構文の習得を調査したInagaki et al. (2009)のフォローアップとして、英語圏に留学する日本人英語学習者による受動構文の習得を調査した。その結果、これらの学習者にも間接受身の過剰般化(*I was stolen my bike)が見られ、L1の項構造の現れがL2より広い場合、学習可能性の観点から、L1の影響が消えにくいという仮説がさらに支持された。なお、この研究では、Inagaki et al. (2009)で欠けていた統制群としての英語母語話者のデータも含まれており、研究の妥当性が高まった。その結果、予測された通り、英語母語話者は間接受身文をまったく容認しないことが明らかになった。
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