研究課題
言語・文化越境(言語・文化のスイッチ、混合使用)を日常的に行なう人々に対して実施したインタビューについて、スクリプトの分節化、物語領域と評価領域区分の分析を進めた。彼らは、L1, L2(英語、日本語、韓国語), L3の言語能力を、母語話者基準に照らして比較することはあるが、その比較において下位にあるL3の能力に関してネガティブな表現は用いない。母語話者の運用に届かない言語・文化使用が、コミュニケーション上、不利とならなかった経験、あるいはかえって有利に働いた経験をむしろ評価している。それらの経験により、能力不足よりも、その職業的価値、親密な関係構築のための価値が意識化されている。彼らはその価値の意識化により、言語・文化越境機会を増やし行動領域を広げるが、その行動領域拡張は、家族や周囲で共有される「社会的上昇」イメージを追わない。このことは、以前の研究データに見られた、日本人大学生の目標言語・文化使用活動において「私個人」が表れないという意識と目標言語能力過小評価への固執の問題を想起させる。実際の言語越境者たちは、母語話者基準や一般的外国語使用価値から独立し、「私個人」の表出をともなう行動により見出された個人的な言語・文化の価値を優先した結果、個人的な言語越境領域を開拓するが、現在の外国語教育は、一方で日常的な言語越境に導きながら、個人的価値の発見をうながすことはまれである。これらの考察の後、日本の大学生に既習言語・文化の個人的価値を意識化させる教材として「言語ポートレート」の有効性を検討した。導入実験により、日本の大学生においては既習外国語の価値が「学習」概念から離れ難いことが明らかになった。今後この教材のさらなる工夫を試みる。以上について、北海道大学、東北大学、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院の研究集会にて、口頭発表し、意見交換を行なった。
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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Didactique plurilingue et pluriculturelle (Edtions des archives contemporaines)
巻: Alao, G. et al. (dir.) ページ: 143-152