研究概要 |
一般に,テキストカバー率が高くなり,テキストで未知語が少なくなれば,それだけ読解が容易になると予測される。また,語彙知識と読解力は密接に関連するため,語彙サイズを測定すれば,読解力も推定できると思われる。しかし,テキストカバー率と語彙サイズのどちらが読解力と関係が深いかは,明らかになっていない。本研究は,テキストカバー率,語彙サイズ,読解テストの得点を比較して,教材選択のための指針を提案することにした。 調査参加者として50名の大学生の協力を得た。語彙サイズ,テキストカバー率,読解テストの得点を本調査の分析対象とした。語彙テストから推定された語彙サイズの結果の平均値で見ると,語彙サイズは5528.6語,2つの読解テストのテキスト部分のカバー率が96.01%,読解テストが16.89(20点満点)となった。さらに,読解テストの得点と語彙サイズ,読解テストの得点とテキストカバー率の相関を算出した。その結果,読解テストの得点と語彙サイズがr=0.46 (p <.05),読解テストの得点とテキストカバー率がr=0.54 (p <.05)となった。読解力は,語彙サイズやテキストカバー率と中程度の相関にとどまったが,読解とテキストカバー率の方が,読解と語彙サイズよりも,相関が高いことが明らかになった。 この結果は,Aizawa, et al. (2010)が「語彙はすべてのスキルと密接に関係するため語彙力で4技能の1つである読解力も推定が可能」を支持するものである。語彙は読解の道具であり,テキストカバー率の方が,読解の成功の可否を直接的に推定できることを示している。しかし,本調査で使用した読解問題の半数が,類推や推論を必要としていたこと,使用した読解問題の平均点が8割以上の正答率であったこと,などの今後の課題も残った。
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