著者の昨年度までの研究から、目標語を単独で提示するよりも、学習者がすでに知っている語と結びつけて2語のコロケーションで提示するほうが、意味の保持と再生に効果があることが明らかになった。しかし、実験で用いたコロケーションは「形容詞+名詞」の組み合わせのみであり、そのほかの組み合わせでも同様の効果があるかは不明である。 そこで今年度は異なる組み合わせでも同様の効果があるか、以下2つの実験を行った。実験1では名詞(疑似語20語)を目標語に設定し、既習の手掛かり語として(1)形容詞、(2)動詞という2つの条件で「形容詞+名詞」と「動詞+名詞」というコロケーションを作成した。これを同等の語彙サイズを持つ2グループにいずれかの条件で意味を記憶してもらい、その後、直後の意味再生テスト、1週間後に遅延意味再生テストを行った。その結果、動詞も形容詞と同様に、目標語の意味の保持と再生に効果があることが分かった。形容詞と動詞の間に有意な差はなかった。 実験2では動詞(疑似語20語)を目標語に設定し、既習の手掛かり語として(1)名詞、(2)副詞という2つの条件で「動詞+名詞」と「動詞+副詞」というコロケーションを作成した。実験1と同様の手順で実験を行ったところ、名詞、副詞ともに目標語の意味の保持と再生に効果があることが分かった。ただし、再生テストの結果は、直後および遅延テストともに名詞が副詞を有意に上回った。 以上の結果から、形容詞だけでなく、名詞と副詞も既習のものであれば手掛かり語として有効であることが分かった。ただし、副詞の効果は形容詞や名詞に劣ることも判明した。これは副詞が名詞や形容詞に比べて、具体性やイメージ性に欠けるためと考えられる。今年度の研究では、他の組み合わせでも意図的語彙学習に効果はあるが、手掛かり語の効果には差があることが判明したことに価値がある。
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