本研究は、申請者(研究代表者)が一人で前野良沢に代表される草創期蘭学の和文・欧文資料と文献を収集・研究し、国際交流史の一環としての草創期蘭学の実態と全体像を解明しようとするものである。 平成24年度は、22、23年度の成果を踏まえ、前野良沢の代表的門人大槻玄沢の研究を進め、オランダ語学に関する資料を再点検して良沢像構築の一助とした。大槻玄沢の語学力については、大槻玄沢顕彰会(岩手県一関市)の平成24年度大会記念講演会で講演し、原稿はいずれ活字になる予定である。 また前野良沢の伝記『前野良沢評伝』の執筆を開始した。残念ながら年度内に完全に作業を終えることは出来なかったが、現在最終段階に入っている。『解体新書』の翻訳リーダーでありながら訳者として名を出さなかったため、杉田玄白の陰に隠れてはいるものの、資料的制約から、従来の前野良沢伝は、やはり『解体新書』中心に描かれてきた。それに対し今回の評伝は、良沢の全著訳書の分析を可能な限り試み、周辺人物も調査して、医学よりもオランダ語研究に「生涯一日のごとく」打ち込み、医学のみならずオランダ語学・ロシア史研究のパイオニアとなった学者前野良沢の新しい人物像を描くことを目指した。その過程で、中津藩と長崎との関係、松平定信と前野良沢との関係等に、これまで知られていなかった事実を発見することもできた。まだ不十分な内容かと思うが、この成果を次につなげたいと考えている。
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