国内調査としては、以下を実施した。①鹿児島県霧島市国分の旧唐人町調査。②山口県内の「唐坊」遺称地である、阿武町奈古「東方」、長門市三隅「東方」調査、および③海外とも連絡した可能性のある中世港町として注目される島根県益田市域の調査。 このうち特に②の「唐坊」遺称地調査では、現地の図書館・役場にて資料を収集するとともに、実地調査を行った。その結果、いずれも河口部の河川近くに立地していること、交易に関係すると考えられる小字「市」に隣接しているなどを確認した。 海外では、インドネシア共和国のバンテンとジャカルタにて調査を実施した。とくに前者は15~19世紀に港市国家として栄えたバンテン・ラーマの故地で、中国人居留地跡がある。そこで寺院・墳墓等を調査するとともに、外国人居留地の立地について多くの知見を得た。 研究成果の報告としては、3回の口頭発表を行った。すなわち、a.5月の隼人文化研究会(於鹿児島市)、b.9月の「歴史を活かしたまちづくり講演会」(於島根県益田市)、c.11月の史学会大会日本史部会(中世)シンポジウムのコメント(於東京都)。このうちbは上記国内調査の②③に基づいて、外国人居留地も存在した12世紀の日本列島をめぐる交易ネットワークの中での益田の位置づけについて基調報告し、島根県内の中世港湾遺跡の発掘担当者と共にシンポジウムのパネリストをつとめた。 本年度はインプットが中心であったが、中国地方の調査を実施できたこと、東南アジアの「外国人居留地」と日本国内のそれを本格的に比較研究する上での基礎資料を得たことが成果であった。
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