本研究は、多様な中世文書のなかにあって、史料として利用することが相対的に困難な書状および仮名消息について、史料として活用するための基盤を形成することを目的とする。具体的には、禁裏(天皇家)・三条西家・山科家および興福寺などの旧蔵にかかる室町時代中後期の書状を主要な素材として、(1)文書群・史料群への注目、(2)特定の人物の書状への注目という両様のアプローチにより、その方法論を鍛えると同時に、史料としての可能性を示すものである。 初年度である2010年度は、以下のような研究をおこなった。 (1)東京大学史料編纂所所蔵実隆公記の原本について、紙背文書の差出人の署名・花押の集成作業をすすめた(未了)。 (2)仮名消息読解のための自習教材を作成し、末柄のホームページ上で公開した。具体的な素材としては、東京大学史料編纂所所蔵実隆公記紙背文書のなかから女房奉書を取り上げた。 (3)東京大学史料編纂所所蔵北白川宮旧蔵手鑑零存や宮内庁書陵部所蔵言国卿記の紙背文書などについて、適宜翻刻・検討をすすめた。 (4)主として東京大学史料編纂所架蔵の複本類によって、洞院実煕や甘露寺親長の書状の収集につとめた。特に実煕については、宮内庁書陵部所蔵桂宮本『洞院実煕消息』全点の翻刻をおこない、後花園天皇と実煕との関係について笙の秘曲伝授の観点から仔細に検討を加えた。
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