本研究は、多様な中世文書の中にあって、史料として利用することが相対的に困難な書状および仮名消息について、史料として活用するための基盤を形成することを目的とした。具体的には、禁裏(天皇家)・三条西家・山科家および興福寺などの旧蔵にかかる室町時代中後期の書状を主要な素材として、①文書群・史料群への注目、②特定の人物の書状への注目という両様のアプローチにより、その方法論を鍛えると同時に、史料としての可能性を示すものである。最終年度である2012年度は、以下のような研究をおこなった。 I東京大学史料編纂所所蔵実隆公記の原本について、日記中に貼り込まれた書状および紙背文書として残された書状の差出人の署名・花押の集成作業をすすめ、俗人男性について整理のうえ、報告書『実隆公記紙背文書花押署名総覧(公家武家編)』(東京大学史料編纂所研究成果報告2012-8)を刊行した。 II末柄のホームページ上で公開している仮名消息読解のための自習教材について、新たに4点を追加公開した。具体的な素材としては、東京大学史料編纂所所蔵実隆公記紙背文書および同記に貼り込まれた文書のなかから後土御門天皇女房奉書を取り上げた。 III宮内庁書陵部所蔵言国卿記紙背文書について読解・分析をすすめ、室町時代後期における楽人の所領や、貴族と地方の武士との通婚について検討をおこなった。 IV陽明文庫・勧修寺・鳥取市歴史博物館等に出張し、中世史料の調査をすすめ、その一部について史料紹介をおこなった。
|