この研究課題の最終年度であるため、これまでの研究で解明が十分でなかった、①出家の理由と、②出家の許可について重点的に検討した。 まず、①出家の理由については、(A)自発的出家、(B)強制的出家、(C)複合型出家、(D)死後出家の4種に分類することができる。そのうち、(A)自発的出家の理由を探ると、(1)発心、(2)病、(3)厄、(4)高齢、(5)充足、(6)他者の死(主人、夫、妻、子、養君、父母兄弟)、(7)主従・夫婦の同心出家、(8)政治的敗北、(9)前途悲観、(10)恥辱、(11)抗議、(12)関係解消、(13)偽装に分類することができる。 その中でも、特に(11)抗議の出家が興味深い。それには、(a)政治的不満が原因で権力者が出家するタイプ(後深草上皇・足利義嗣)、(b)政治的不満が原因で家臣たちが一斉に抗議の出家をしたタイプ(1485年幕府奉行人)、(c)父への抗議(藤原公賢・足利義尚)、(d)子への抗議(紀良子)、(e)夫への抗議(小川禅啓妻)の存在を確認することができた。日本中世では、出家が政治的駆け引きとして用いられていたことが分かる。 (B)強制的出家については、(1)政治的敗北者への強制出家(源頼家・北条時政)、(2)敗北者への半強制的出家(後鳥羽院・足利直冬)、(3)後家に対する出家命令(小川宮妾)、(4)同心出家の半強制(足利義満)がある。(C)複合型出家は、(1)複合的要因による出家一般と、本当の出家理由を隠した(2)口実型(大庭景義・葉室長隆)に分かれる。(D)死後出家は江戸時代に多数派となるが、初見は九条良通(1188年)であり、鎌倉・室町時代に次第に広まった。 一方、②出家の許可については、(1)朝廷、(2)幕府、(3)主人、(4)夫、(5)親が出家を許可していたことが確認でき、許可のない出家は自由出家として、処罰・離縁されたことが判明した。
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