平成22年度は、本研究の目的である「仕入(前貸・出資)」と「魚市場(漁獲物換金化・流通)」の観点から漁村の具体的実態を解明すべく、史料調査と分析を進めた。 まず、主たる研究対象となる山口県地域では、山口県文書館の藩政文書、行政文書、諸家文書の調査を実施し、漁業関係史料の抽出と撮影・収集を行った。この内、行政文書に含まれる明治20~30年代の県内漁業および魚市場に関する旧慣調査は、本研究の進展に大いに資する重要な史料であることが判明した。また、主として日本海沿岸地域を中心に現地調査を行い、萩市(阿武郡)江崎浦小野家文書、同宇田浦金子家文書、長門市(大津郡)大日比浦上利家文書、下関市(豊浦郡)矢玉浦内田家文書、同小串浦漁協文書などの調査を実施した。これらの調査を通じて、日本海沿岸地域では、釣漁主体の漁村で「引船制度」が展開し、網漁主体の漁村では網元・村君・網子という異なった漁業編成がなされていたことが明らかになってきた。瀬戸内海域では、柳井市(大島郡)平郡島浅海家文書の分析から、同海域の仕入と魚市場を掌握していたといわれる「商主」の存在について析出し、論文「平郡島における舸子役と漁業権」として公表した。以上の調査収集史料については、データベース化して整理し、「防長漁業関係史料目録」の作成に備えている。 本年度は、山口県以外では、山陰地域(主として石見)および九州北部地域(主として対馬)の漁業制度に関する調査も並行して実施した。この内、石見地域では、邇摩郡大浦林家文書(島根大学図書館所蔵)をはじめとする史料・文献調査を行い、魚市場と漁民の関係を示す経営史料を中心に分析を進め、長門国との類似性・共通点などを探った。対馬藩に関しては、藩政史料を所蔵する長崎県立対馬歴史民俗資料館(対馬市)および東京大学史料編纂所への調査を実施し、仕入を軸に漁獲物流通の主導権をめぐって対立する対馬厳原町人と長門豊浦郡引船問屋の実態解明を進めた。
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