研究課題/領域番号 |
22520674
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
木部 和昭 山口大学, 経済学部, 教授 (20263759)
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キーワード | 漁業史 / 魚問屋 / 魚市場 |
研究概要 |
本年度は、長門国日本海沿岸地域における特徴的な「引船制度」に関して、仕入と魚市場を通じた漁業生産組織の編成の在り方について分析を進めた。その際、明治初年の山口県庁文書等の利用により、従来不明瞭であった引船闇屋と漁民との関係や契約内容、糶売り方法、口銭額等の詳細が明らかとなった。これにより引船制度が、漁民に対する漁業金融の提供や漁獲物販売における商業機能の代行、計画的な漁船新造による漁業振興といった、漁業の再生産を支える重要な役割を担っていたことが確認された。また、漁村における年貢諸役公納に際しても、引船問屋がそのとりまとめを担っており、浦方社会の支配と編成という観点からも重要な存在意義を有していたことが分かった。こうした引船制度に関する研究の一端は、社会経済史学会中国四国部会大会において「近世長門の引船制度に見る漁村の内部構造」という標題で報告した。 一方、瀬戸内海沿岸地域の事例分析としては、長門国厚狭郡埴生浦について取り上げ、論文「厚狭郡埴生浦における魚糶場と仕入~長門国瀬戸内海沿岸地域における魚市場の一形態~」として公表した。この埴生浦の事例を日本海の引船制度と比較すると、(1)瀬戸内海地域でも仕入は見られたが、その対象が極めて限定的であり、引船制度のような全面的な依存は見られない、(2)魚糶場は入札による期限付きの請負制であり、漁民と問屋の関係が必ずしも強固ではない、(3)漁民は魚糶場以外にも漁獲物販売経路を有しており、抜け売りが少なくなかった、などの相違点が明らかになった。総じて、瀬戸内海漁村の方が漁民の自立度が高いという傾向が指摘でき、両海域における一定の地域類型が浮かび上がってきた。 この他、防長両国との比較のため、筑前国福岡藩領の浦方史料、対馬藩郡奉行所記録、漁業制度調査資料(石見国関係)など、周辺地域の漁業関係史料調査も昨年度に引き続き実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主たる対象地域である長門・周防両国(山口県)に関する漁業関係史料の悉皆調査については、周防国の一部が未了であるが、これは当初計画で想定していたものであり、ほぼ順調に進んでいる。また、瀬戸内海と日本海という二つの海域における漁村の仕入・魚市場の実態や、地域類型に関する実証分析も進めており、研究目的達成に向けて着実に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
現在までのところ、瀬戸内海沿岸地域の内、周防部の調査が一部未了であり、本年度はその悉皆調査を完了させ、その成果は「防長漁業関係史料目録」にまとめる。また、防長両国との比較対象として想定していた周辺地域の漁業制度に関しては、瀬戸内海沿岸地域(山陽・四国)が未着手であるため、その調査を本年度に集中的に実施する。以上の史料調査と平行して、3年間にわたる史料調査・研究を総括し、「仕入」と「魚市場」の観点から漁村の内部構造を体系的に解明する。あわせて、個々の事例の比較を行いながら、地域・漁法あるいは時代による漁村の内部構造の類型化を試みる。以上の諸成果は、研究成果報告書にまとめて本年度末に公表する。
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