2011年度は、萩藩領における労働社会関係資料の収集を主に行った。山口県文書館にて萩藩の判例集である「御仕置帳」等をデジタルカメラにて収集、印刷の上、分析作業を進めた。また東京大学史料編纂所蔵益田家文書のなかからも、奉公人関係史料を収集した。これを通して、とくに萩町や瀬戸内沿岸部における仲仕、上荷、奉公人などに関する社会史的史料をみいだすことができた。また徳山藩の藩庁史料のなかより「願事録」の分析も進めた。同藩の瀬戸内沿岸部の在町を対象に、綿打を初めとする日用的職人の関連史料をみいだし、かれらのあり方についても考察した。これらの作業を通して、萩町および瀬戸内沿岸部での都市域に日用的存在が分厚く存在していたことをあらためてあきらかにできた。同時にかれらが独自の社会関係をなし集団形成も行っていたこと、その一方でかれらの労働に吸着する業者の成長もみいだせた。 このほか、大坂における仲仕関係史料の収集作業も進めた。大阪府立中之島図書館、大阪市立中央図書館蔵史料のなかに、従来知られていない仲仕や労働社会に関する史料をみいだし、その収集を行った。 さらに広島藩領における仲背(仲仕)関係史料の調査も行った。広島県立文書館にて、竹原、尾道、三原など瀬戸内沿岸部の都市域に所在する史料を調査、所在状況を確認することができた。 以上の史料収集活動と並行して、研究成果の分析・公表にも努めた。一つは国際的な歴史雑誌Annalesに萩城下の奉公人をテーマにした論考を発表した。また2012年3月に上海大学で開催されたシシポジウムにも参加。大坂の仲仕をテーマにした「近世大坂の運輸労働」を報告した。さらに文献紹介の形ではあるが、藤本清二郎氏の新著『近世身分社会の仲間構造』を検討し、身分社会の捉え方について意見をのべた。
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