研究課題/領域番号 |
22520679
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高野 信治 九州大学, 大学院・比較社会文化研究院, 教授 (90179466)
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キーワード | 平等 / 差別 / 生活 / 孝子 |
研究概要 |
本研究は、思想史や政治史・法制史、さらには地域社会史など多様な観点から、政治の問題を福祉という観点を導入しつつ総合的に検討するのが目的である。本年度は、武家領主が持ったとされる仁政観、御救認識との関係で、地域社会において役人(庄屋・肝煎など)などを勤めながらリーダー的存在であると同時に民政の一端も担う階層の政治意識や政治的要求の性格の検証を進め、以下のような見通しを得た。 (1)近世武家領主の仁政観、御救認識の形成をどのように捉えるのかの重要性が再確認された。一つは儒学的思考に求める考え方があり、近世中期の政治改革期が注目されてきたが、改めて近世前期の段階では儒学的思考を背景とした福祉観念の未成熟が指摘されよう。領民救済の発想は、生産者の疲弊を契機としたもので、武家領主側にとって永続的で根本的な政策基調とはいえなかった。年貢確保が前提としてある。 (2)地域役人層は共同体の成員の有力者といえるが、彼らの間に形成された福祉的発想も地域の共有利害や人間としての生の平等という本質的問題に根ざしたものではなく、分限に応じた役負担を前提に考慮されたもので.限定的であった可能性が高い。高齢者や病者・障害者などへの福祉・介護などは、領主側や役人主導で共同体が行うというよりも、基本的には家族・親族が行うべきもので、そのような前提から孝子顕彰が地域役人を軸になされる傾向が強かったと思われる。 (3)武家領主や地域社会による儒教的発想などを基軸にした福祉観念は、近世中後期の社会変容による従来の収受や秩序システムの機能不全を前提とした政治改革で本格的に導入され、地域役人による地域住民の福祉、生活向上の発想は、その意味で近世前期の段階では不十分であった。むしろ、福祉と社会的な差別は表裏の関係にあり、その関係性の歴史的考察が不可欠である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
武家領主の政治思想、民政認識と地域役人の共同体意識、福祉観念が、役の賦課と請負を軸に重なり合う可能性がみえ始めており、近世における思想史と政治史・法制史や地域史などを横断的に結びつける成果がでてきた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)本年度は史料収集とその分析に終始し、成果物の刊行(論文化)が遅れているが、今後は本テーマに関わる多岐にわたる史料の再整理(選択)が必要である。 (2)本研究は、近世日本における福祉観念をめぐり、方法論の横断的な結合を試みるものであり、前項11に触れたようにその見通しもつき始めたので、さらに、史料の整理を行いながら、その方向性を強める。 (3)前項9で触れたように、近世日本における福祉的発想を考える場合、差別の問題と密接に関わると思われる。福祉と差別という視点からの分析も進める。
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