本研究は、日本古代における中国「書儀」の受容と転換について、具体的な様相を明らかにし、日本中世以降に盛行する「往来物」「書札礼」の成立についての見通しを立てることを目的とする。 今年度は、書儀の一つであり、「往来物」の起源となったと考えられる「月儀」についての研究を深めることができた。当初の予定では、台湾故宮博物院所蔵の「唐人月儀帖(十二月朋友相聞書)」についての調査・研究と、ロシア科学アカデミー東方文献研究所(IOM)所蔵の「索靖月儀帖」断簡の調査を行う計画であったが、前者に関しては極めて貴重な文物であるため、直接実見することはかなわなかった。しかし後者に関しては、9月にロシア・サンクトペテルブルクで開かれた研究集会に参加して、「索靖月儀帖」についての基礎的研究成果を報告し(英語)、併せて詳しく実見調査することができた。またIOMから精度の高いデジタル画像を入手することができ、その画像処理によって、当該資料が双鉤填墨の技法で作られた極めて精巧な法書であることが確認できた。唐代の双鉤填墨の法書は数が少なく、日本の宮内庁書陵部や尊経閣文庫に所蔵される王羲之の法書と並ぶ貴重な遺例であるといえる。この成果はすでに論文(中文)にまとめ、近日中に発表予定である。 並行して、各地に所蔵される敦煌文献書儀について、コピー等による資料の収集整理をすすめ、また日本国内の往来物についての資料の収集(主に刊本・影印本による)をほぼ計画通りに行った。資料整理には研究協力者の助力を得た。
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