今年度の史料収集のための調査は、尊経閣文庫・宮内庁書陵部・国立公文書館・東京大学史料編纂所・京都市歴史資料館において行った。服飾故実を中心に・儀礼・祭礼に関する史料を収集し、鋭意読解に努めている最中である。なかでも『松風要抄』(尊経閣文庫所蔵)は、全14巻からなる大部なものであり全貌を読解するには数年を要すると考えられるが、中世摂関家の故実を記した貴重な史料集として注目される。今年度は春日詣の運営に関するその読解の一部を、国際日本文化研究センター共同研究会において口頭報告している(研究発表欄参照)。 論文・著書の成果としては、柳下襲を着用する摂関の年令に着目し、それが摂関家の故実と化していく過程を解明した論文を、文学・被服学研究者とともに一冊の論集にまとめた(同前欄参照)。その後『柳色下襲考』など(宮内庁書陵部所蔵)特定の服飾に関する故実書の存在を突き止め、今後の検討に備えてすでに複写を入手している。さらに赤色袍の同様の過程を解明した論文をこれまでの拙稿と並べ、『平安宮廷の儀礼文化』と題する単著に収めた。全体として平安中後期の儀礼や故実が政治文化としての意味合いを色濃く備え、積極的に運用されているさまを解明している(同前欄参照)。赤色袍を検討した章では、拙稿初出後に発見され学会に紹介された『内宴記』の成果を採り入れ、論旨を補強している。いずれにおいても、院政期に家流故実形成の契機が見られ、父祖と同様の服飾で参加することが、実際の年令や風貌をこえて後継者としての誇示に繋がるという点で共通しており、儀礼における服飾への着目は、宮廷社会の政治文化を解明する重要な視点になると考えられる。今後も検討を進めていきたい。
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