本研究課題すなわち装束が宮廷儀礼運営の主目的である支配秩序の確認作業において重要な要素であったことを明らかにする手法として、装束に関する有職故実書の書誌情報を収集整理することで、装束に関する取り組みの質の高さと量の多さを示す作業に取り組んできた。その過程で、昨年度より江戸中後期に再興された宮廷儀礼絵画を描いた絵巻物が、未調査・未紹介である現状に出会い、それらにも検討対象を広げてきた。江戸中後期に宮廷諸儀礼が再興されたことは先行研究により知られていたが、その材料となった日記・部類記・儀式次第が多数存し、そればかりか当時の需要に応える形で、有職故実と当時の実態に即して描かれた大部な絵巻物が少なからず現存していたのである。 そこで江戸中後期の宮廷儀礼に対する貴族社会の取り組みを、故実書のこれまでの整理から知り得た立場を活かし、当時の宮廷儀礼を史料や実態に即して描いている絵巻物を歴史的産物と捉え、儀礼研究の史料論の裾間を広げる史料学的研究の一環として、絵巻物にも取り組むことにした。 具体的には調査しえた絵巻物について、その儀礼に関する当該期の日記記事を網羅的に調査し、いつの実施例に準拠して描かれているのかを解明することで、当該絵巻物の歴史史料としての有用性を明確にする論稿を作成した。描写の実例に準拠したさまを明らかにすることは、当時の儀礼運営が有職故実の観点からみて秩序の確認作業に相当する精度で実施運営されたことを、間接的に論証することになるであろう。 故実書から絵巻物への検討対象の移行は、引き続き取り組むべき前近代宮廷儀礼の史料学的研究の裾野を広げることにほかならない。本研究課題の報告書の内容としてより相応しいものと考え、報告書には二本の宮廷儀礼絵画に関する論稿を掲載する形で、本研究を締め括ることにしている。
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