研究課題/領域番号 |
22520696
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研究機関 | 京都造形芸術大学 |
研究代表者 |
武藤 夕佳里 京都造形芸術大学, 日本庭園歴史遺産研究センター, 嘱託研究員 (80388206)
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キーワード | 京都七宝 / 技芸技術 / 産業クラスター / 近代工芸産業史 / 並河靖之 / 産業創生 |
研究概要 |
技芸(工芸)技術の近代化に注目し、手仕事によるものづくりが新技術の導入や産地の生産体制構造の再編に伴い人と技術と知識との関わりにより地場産業として創成される過程を解明するため、明治期の京都で興隆し、瞬く間に日本の重要な輸出産業となった京都七宝の業に着目する。伝統技術の近代化は殖産興業の一端を担い、後のものづくりの概念に様々な問題を残すが、窯業のやきものや七宝は国際的にも競争力のある産業と成長する過程には産業クラスターの萌芽があったと考える。 近代七宝及び京都七宝に関わる文献資料、古写真や製作に関わる下図を含めた資料等の収集と調査、整理及び京都七宝の復元的考察を可能とするための基礎データのリスト化や近代技芸技術研究会の開催、他分野の研究会への参加を行い、各専門家を交えて収集した資料の活用や検証も継続した。 七宝技法の解明を目的に並河七宝の自然科学的分析調査で収集したデータや資料の検証により、明治期の他の七宝についても早急に調査を行う必要性を実感し、本年度は各地の七宝を対象とした科学分析調査に重点を置き、主に無線七宝の技法の涛川惣助と尾張七宝の林小傳治の調査を行った。従来の蛍光X線による分析の他、測色計、光学顕微鏡による調査も加えた。 また、京都七宝の産業形成を検証する上で、近代庭園研究会(通称植治研究会)、日本庭園学会等の研究活動を通じて、七宝をはじめ技芸(工芸)を主体とした生業が、近代数寄者や文化人、芸術家、政治家、経済人達の交流の要素が不可欠であるという考えに至り、資料収集の範囲の分野を拡げ検証を行ってきた研究の一端を明治期の七宝製作の環境をみる視点として、論文、学会にて発表を行った。一方で七宝製作が近世ではどのような製作形態の中で行われていたのかに着目し、近代七宝の成立する過程を考察する際の手掛かりとするため資料の収集と調査を行うため、各地に調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
京都七宝の求心力となった並河靖之が営んだ並河七宝が操業した明治6年から大正12年のほぼ50年間の活動で行われた製作方法を解明する事により、他の生産地や製造所とは異なる京都七宝の特性といえる製作の方法や技術が明らかにされると考える。現況では製造に関る工程の一部については明らかになりつつあるが、全てが明らかになっているわけではない。その上で、京都七宝を支えた各工程の技術がどの様に形成されていったのかを、今一歩進めて見て行く必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究活動で収集し検証をおこなってきた資料を通じて、明治期の京都七宝の製造方法及び製作環境の復元的な考察を行っていきたい。また、自然科学的析調査で集積してきたデータを基に明治期の日本の七宝業の特性を、七宝釉薬の特性によって検証していく研究も行っていきたいと考えている。しかし、これらの自然科学的分析調査で得られたデータを検証する際には、分析で得られた結果を他のガラスや陶磁器など他の分野で行われている先行研究や文献史料などど共に行っていく必要があると考える。本研究を通じて、七宝研究への興味がより一層開かれ、研究のすそ野が広がっていく事を切実に願っている。
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