研究課題
明治期の京都で興隆し生長を遂げるも、世界情勢や需要の変化などにより地場産業としての継続が困難となり衰退した明治期の京都七宝に着目し、手仕事によるものづくりが人と技術と知識の関わりにより地場産業として創成される過程を解明する。京都七宝の中心的な担い手は、明治29年(1896)に帝室技芸員となった七宝家・並河靖之[弘化2年・1863~昭和2年・1927]である。維新以降に起業し並河七宝工場を営み、国内外の博覧会にて数々の名声を博し、国際的にも高い評価を得た。本研究では、従来の七宝研究では行われていない様々な分野とも交流し、並河靖之の七宝業を通して、技芸(工芸)技術の近代化の実情を検証し、改めて明治期の七宝業を考察する。本年度は、これまで行ってきた研究の総括を目指し、研究会にて検証と考察を重ねた。七宝釉薬の科学分析調査については文化財科学会及び文化財保存修復学会、明治期の七宝の製作環境に関る調査については日本庭園学会にて発表を行った。研究成果は『明治期の技芸(工芸)技術活用による産業創成―京都七宝にみる産業クラスターの萌芽』にて、並河家文書の翻刻、七宝釉薬に関する調査などについて現段階での所見をとりまとめ報告書とした。明治期の京都七宝は、実質的には幕末から近代にかけて興った尾張七宝の成功に倣い、確固たる七宝の生産基盤を持たない維新以後の京都で開花したものであり、並河靖之の七宝業への着手も変革期において生きる糧を得るための手段であった。しかし、こうした京都七宝の成立の過程は、新たな生業の興隆が様々な周辺産業の興隆へと連鎖する産業クラスターの萌芽といえ、その過程を詳細にみる事により、明治期の京都七宝の独創性を見出すことできると確信を得た。京都七宝が人と技術と知識の関わりを通じ、時代の新産業として成立した過程を明らかにし、明治期の日本のものづくりに近代工芸産業史としての眼差しを向ける。
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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文化財保存修復学会 第34回大会発表要旨集
巻: 第34回大会発表要旨集 ページ: 44-45
平成24年 日本庭園学会 関西大会シンポジウム 資料集
巻: 平成24年 日本庭園学会 関西大会シンポジウム 資料集 ページ: 15-18