本研究は、政治・社会の激動期である戊辰戦争期(慶応4=明治元〔1868〕年正月~明治2年5月)の維新政府系の出版物である「太政官日誌」に関する調査を通じて、当該期に大量に現出した木版刊行物に適合的な史料学を確立し、合わせて、当該期の社会文化の研究をおこなうことを目的とする。維新政府系の出版物、いわゆる日誌類は官報前誌に位置づけられるものだが、日本近世・近代史研究の狭間にあって、研究が著しく立ち遅れている。ゆえに本研究では、(1)日本各地に散在する「太政官日誌」の所在状況の確認、(2)モデル調査の実施と異本情報の収集、(3)史料学的な調査方法論の提示をおこなう。また(4)維新政府系の「太政官日誌」を通じて、諸情報が流通していくメカニズム及びその受容と影響に関する問題を解明し、当該期に特有な社会文化の展開とその過程について展望する。 平成22年度の成果は、以下の通りである。(1)の調査をすすめ、(1)に基づき(2)として、東京大学経済学部・東京大学総合図書館・早稲田大学・中央大学・国立公文書館・防衛省防衛研究所・愛知県図書館・名古屋市蓬左文庫・岡山大学・山口県文書館などにおいて、モデル調査を順次実施した。並行して「太政官日誌細目カード」のデータ化と共有方法の設計を進め、9月にデータ・フォームを決定して入力作業に入り、1000データの入力をおこない、3月に試作としての第1次集計を終えた。(3)・(4)は異本調査の継続ののちに成果としてまとめる予定である。 日常の意見交換はメーリングでおこない、8月に東京で研究会・モデル調査、2月に名古屋でモデル調査を実施し、討論した。計画の変更点は一つで、3月に開催予定であった研究会を大震災のためネット研究会に切り替えた。
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