平成22年度は予定通り、六国史等の古代史料における暦・時刻等の時間制度および時間観念に関わる記事を調査した。関連して、調査中に判明した『続日本紀』の史料的性格についての通説の問題点を検出し、2010年11月の九州史学研究会古代史部会にて報告した。これらを踏まえて主に『日本書紀』『続日本紀』段階における時間制度の成立過程等について、現在検討しているところである。また他機関におけるいくつかの史料調査を実施した。特に国立天文台において、古代・中世における暦注のマニュアルである『大唐陰陽書』(大衍暦の暦注とも言われる)の原本調査ができたことが収穫であった。同書は同機関撮影のマイクロフィルムでも、紙綴じ目あたりの文字が切れており、また朱書等が不鮮明な箇所も少なくないからである。調査によって虫損箇所等も含めて、多くの文字を見つけることができた。また一体の関係にある宣明暦関連の書籍(『宣明暦食甚加時新術』『宣明暦算術聞書』)をも調査した。今後、これらを踏まえて国立天文台本の写本の性格、ひいては『大唐陰陽書』自体の性格を解明すること、また奈良時代以前の暦・時刻についての研究の進展が期待できる。また木簡学会における木簡調査では、藤原宮11号木簡(「暦作」木簡)や、用役日数に関わる太宰府条坊跡出土の歴名木簡を実見することができた。今後、古代における時間制度の展開とその実用性について解明する手がかりとなる。以上のように、当該事業の初年度にあたって、基礎的な作業の多くを実施できた。なお年度末にさらなる史料調査を計画していたが、東日本大震災の影響で中止を余儀なくされた。これに関しては次年度に実施する予定である。
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