本研究の目的は、前近代の日本の宮廷で用いられていた服飾・調度品などの物質文化を対象とし、公家階層の生活様式に基づいた宮廷工芸の分類体系を構築することにある。 このように本研究の対象は、日本の宮廷工芸という特定事例であるが、その意義は歴史研究における物質文化的側面を深化させ、人間の生活感を反映する歴史の構築に資する工芸史研究の試論とすることにある。 本研究の研究方法は、A.史料に記録される宮廷生活における工芸品の調査、B.現存する宮廷工芸の実物資料の調査、C.現行の伝統的祭礼行事における宮廷工芸の用例の調査という3つの方法を併用する。これらの調査によって、宮廷工芸に関する文献史料や実物資料のデータを充実し、その分類体系を構築することで、物質文化的見地による工芸史研究を進めるうえでの基盤整備を図る。平成22年度は下記の調査を行なった。 A.宮廷生活記録の文献調査 本研究の基本史料となる東京国立博物館蔵『旧儀式図画帖』の根本史料である宮内庁書陵部蔵『公事録』全95巻をはじめとする宮廷工芸史料の複写を行ない、逐次、史料記事の検討を行なっている。 B.宮廷工芸の実物調査 東京国立博物館が所蔵する宮廷工芸のうち調度品・装束裂集の調査を行ない、宮廷工芸の形式の検討を行なっている。 C.宮廷工芸の用例調査 京都の葵祭において用いられる服飾・調度類の調査を行ない、関係者のあいだに伝えられた伝承や技術の聞き取り調査を行ない、実物資料を取り巻く環境の検討を行なっている。 以上の調査によって、宮廷工芸のデータベースの整備を行なっている。
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