研究課題
本年度は、初年度の18世紀末から19世紀初頭にかけてのインド在住イラン人が著した旅行記、とりわけミールザー・アブーターレブ・ハーンの『求道者の旅路』(Masir-e Talebi)を通して西欧文明との邂逅がいかようであったかという視点から、さらに19世紀前半にシフトし外交官や留学生といった独自の目的をもって西欧と接したイラン人知識人の観察記録を取り上げる予定であった。外交官アボル・ハサン・イールチー著『驚愕の書』(Heirat-name)とミールザー・サーレフ・シーラーズィーによる『旅行記』(Safar-name)のテキストを入手し、とくに分量の多い後者については閲読をしたものの深く掘り下げて解読するまでにはいたっていない。むしろ今年度は未着手であった『求道者の旅路』の帰路篇(刊本で200頁程度)を精読、一部訳読しつつその成果を本研究科の科長裁量経費研究プロジェクトで取り組んできた中東表象研究会で10月に研究発表を行った。アブーターレブ・ハーンの帰路は地中海からオスマン帝国頑内に及び、西欧に対する表象と比較対照的に分析可能だと考えたからであった。残念ながらまだこの研究成果は活字で公表していないが、来年度には周辺情報も収集しつつ纏め上げたい。また、9月にはイランに調査研究のため出張し、研究課題に関連する資料の収集や図書館などでの所蔵調査を行った。昨年度中に公刊予定であった論文が、東日本大震災の影響で掲載書籍の出版が5月末となったため、今年度の研究実績の一つとなろう。これはイランが西欧近代との接触;対応を強いられる過程で、20世紀初頭に立憲革命を経て、第1次大戦後にはソ連社会主義という未知なる思想と外交の狭間で揺れ動くさまを描いたものである。
2: おおむね順調に進展している
大いに進展しているといい難いのは、何よりも東日本大震災の影響を受け、所属機関や研究活動にも多少の支障と遅れが生じたからである。ただテキストの収集・解読は相応に進展しているといえる。
当初の研究計画では本年度は19世紀後半にさらにシフトする予定であったが、インド在住イラン人の残した記録が予想していた以上に豊富に残存しており、またその中味についても多岐にわたるため、一つの焦点としてこの領域をいま少し幅広く掘り進めることにしたい。可能であれば現地ベンガルの研究者とも協力して共同研究的なアプローチも試みてみたい。
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歴史の再定義:旧ソ連圏アジア諸国における歴史認識と学術・教育(岡洋樹編)(東北大学東北アジア研究センター)
巻: 東北アジア研究センター叢書第45 ページ: 133-168
http://www.cneas.tohoku.ac.jp/e_data/publication03.html