本年度は、最終年度に当たるため当初の研究計画を微調整し、ヨーロッパとの交流が軌道に乗る19世紀後半をひとまず捨象し、18世紀後半から19世紀初めにかけての初発的な邂逅の現場に焦点を絞り、当該時期におけるインド在住イラン家系出身ムスリム官僚のイギリスを軸としたヨーロッパへの渡航・滞在とその記録というフレームワークを設定し、前年度来取り上げてきたアブー・ターレブ・ハーンの『求道者の旅路』なる浩瀚な旅行記のみならず、その前後にも記録された情報量や質が相当異なるものの、彼と似た社会環境で育成されたムスリム官僚のヨーロッパ旅行記が残されていることに気づき、それらを集中的に調査し資料を集め読解を試みた。とりわけアブー・ターレブより1世代早くにイギリスに使節として赴いたミールザー・エエテサーモッディーンの旅行記『ヨーロッパの驚愕の書』の書誌情報とテクスト解析を手がけ、論文「18世紀後半インド在住イラン家系出身ムスリム官僚の訪欧旅行記」として公表した。 またインドに資料調査を目的に出張し、ベンガル地方の近代史を専門とする若手研究者と共同して、コルカタ(カルカッタ)のインド国立図書館やベンガル・アジア協会図書館などで関連文献を収集し、アブー・ターレブの生まれ故郷ラクナウを実地見聞するとともに、地元図書館で資料調査を行った。さらにパトナにあるインドのムスリム関係の主要図書館であるホダー・バフシュ・オリエンタル図書館を訪れ、館長に面会し協力を依頼し研究テーマに関連する写本類の調査を実施した。
|