本年度は以下の研究をおこなった。 1) 朝鮮通信使と朝鮮燕行使をつなぐキーパーソンである洪大容につき、研究をすすめた。なかでもその主著である『乾浄〓筆談』がどのような編纂過程をたどって、我々が今読むものとなったのか、考察を進めた。このために現存する『乾浄筆譚』の諸版本を比較した。また『乾浄〓筆談』の訳注作りを進め、おおよそ4分の3を完了した。 2) これまでに日本語あるいはハングルで公表した朝鮮燕行使と朝鮮通信使に関わる諸論文に加筆訂正を行い、これを中国語訳し、論文集『朝鮮燕行使と朝鮮通信使-使節が見た中国・日本』(上海古籍出版社)として、中国で出版した。 3) 18世紀朝鮮知識人のグループとしていわゆる北学派がある。北学派知識人たちが東アジアの政治構造をどのように見ていたのかにつき、彼らの地理的知識の進展をも含めて考察を進めた。 4) 内閣文庫と東洋文庫に赴き、『両東筆語』など通信使関連の史料を収集した。 5) 『韓国文集叢刊』『越南漢文燕行文献集成』のほか、朝鮮燕行録や朝鮮通信使録などの資料を読み進め、そこに現れる朝鮮知識人による中国知識人・ベトナム知識人および日本知識人との交流関係の記録、ヨーロッパやアジア諸民族について見聞した記録、なかでも満洲民族に対する観察、医学など自然科学についての見聞に関わる史料を収集した。また、朝鮮知識人が異国で見た家族、民衆の生活、風俗衣装についての彼らの考え、物質的な豊かさについての彼らの見聞に関わる史料を収集した。 6) 日本-朝鮮-中国とつながる銀の移動と、三国間における国際商業について研究を進めた。
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