研究概要 |
中央アジア出土文物を所蔵する世界各地の機関のうち,一昨年度はロンドンの大英図書館とベルリンのベルリン・ブランデンブルク科学アカデミーならびにアジア美術館,そして昨年度はパリにあるフランス国立図書館ならびにギメ美術館を訪問し,古代ウイグル語手紙文書の原文書とマニ教関係文書・絵画の調査を行なった。当初の計画では,サンクトペテルブルクのロシア科学アカデミー東方文献研究所での調査も予定していたが,費用と日程の問題からそれは実現しなかった。そこで最終年度である本年度は,同研究所所蔵のウイグル文書のマイクロ写真を所蔵する東京の(財)東洋文庫に出張して,テキストの確認を行なった。 以上のような作業を踏まえて,この3年間に,「シルクロード東部出土古ウイグル手紙文書の書式(前編)」(『大阪大学大学院文学研究科紀要』51, 2011年3月)と「同(後編)」(森安孝夫編『ソグドからウイグルへ』汲古書院,2011年12月),及びそれらの英語版を発表することができた。本論文の前編・後編を合わせることによって,古ウイグル手紙文書の書式の大枠を理解し,書式・字体・宗教などの特徴によって年代決定をして,歴史史料として活用する道が開けたと確信している。 本研究の目的は,i) 中央アジア出土古代ウイグル世俗文書の中から手紙文書を探し出すためのキーワード及び書式の発見,ii) 書体・書式・キーワードから年代決定する方法を編み出し,歴史史料として活用する道を開く,iii) 全テキストの集成版の構築であった。3年間で i) と ii) を完成し,しかもそれを英語で発表することができた。しかし,iii) すなわち『シルクロード東部出土古ウイグル手紙文書集成』の完成は持ち越しとなった。幸い,引き続き3年間の科研費が認められたので,最終目標に向けて努力していきたい。
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