多民族・多文化を特徴とする珠江デルタ流域は16世紀を分岐点として科挙官僚制を軸とする儒教システムによって統合される一元的な構造へと変質していった(儒教化)。本研究は、この儒教化のプロセスにおいて海外貿易の窓口、広東の行政首都であった広東省城及び周縁の州県城(とくに羅定城)がいかなる文化的役割を果たしたのかを探求することを目的としている。本年度は、当初計画に基づき、次のような作業を進めた。(1)中山大学(広州市)において、民国期の調査報告書(『広東土地利用与糧食産銷』、『広東全省田賦之研究上・下』、羅定地方の地方志、族譜などを収集した。(2)羅定市博物館研究員・陳大遠氏などの協力を得て、旧ヤオ族居住地(龍湾、加益)を調査し、居住空間や染料加工場の跡地を確認した。とりわけ加益での調査は有益であった。加益の村民は現在漢族を自称するが、族譜における祖先記録や盤古神(ヤオ族の祖先神)崇拝の継続(同村の祠、寺院で盤古神を祭祀)など、ヤオ族の漢化=儒教化の痕跡を色濃く残していた。(以上、平成22年12月23日~28日に実施)(3)大阪市立大学に陳大遠氏を招へいして、都市史に関する研究会を開催し、儒教化に関する意見交換を行った。また、定例研究会(中国近世近代史研究会)で中国の都市に関する文献、『盟水斎存牘』、『撫粤政略』など広東の都市に関わる基本的文献を解読する作業を開始した。(4)珠江デルタ流域の発展が海外貿易に大きく依存していることを、関税徴収の問題を検討することにより明らかにし、また搶米暴動の分析を通じて、省城の都市行政、社会関係を考察した。ともに都市がもつ文化的中心機能を解析する前提条件である 以上の作業により、儒教化と都市の文化的役割を解析する基礎的条件を整えた。
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