平成22年度には、第43回南アジア研究集会(日本南アジア学会に準じる年次の研究集会)において自身が幹事代表を務め、そこで、「南アジア歴史/地域研究における新しい文化資源の探求」と題するセッションを組織した。同セッションでは、複数の報告者を招いて、様々なモノや図像、築造物などを新たな文化史料として探求し、それらを政治史や社会経済史の研究における新しい研究手法や解釈・論証に繋げていく手法について、知見を深めた。また、自身も、そのなかで、「近代インドにおける消費の政治化:文化資源の探求からの検証と考察」と題する報告を行った。また、これとは別に、「ムスリムにおけるアイデンティティの複合性とその物象化:マッチ・ラベルからの検証」と題する論文を公刊した。 上記の研究成果は、まさに、本科研の研究テーマと密接に関係するものである。19世紀末以降は、欧州や日本から、論文に取り上げたマッチ(燐寸)をはじめ、香料、化粧品、石鹸、装身具、文房具、玩具などの軽工業製品が流入しインドに大衆消費市場を形成したが、これらは、同時に、インドの企業家や消費者のなかに、インド独自の商品もしくは物的な文化世界を創り出そうとする反発も生じさせた。ナショナリズムや経済階層、ジェンダー、宗教、カーストなど、様々な社会規範や理念、集団表象が、モノという場を媒体として交錯・競合する歴史的な動態を、本研究は解明しようとしている。
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