本研究課題では、近現代インドで輸入品を含む軽工業製品がその消費の過程において付帯した社会・文化・政治的な表象に焦点を当てている。なかでも、国産品奨励運動や社会改革運動(奢侈品抑制の運動など)の文脈のなかで、明示的に問題になったことが了解されているいくつかの商品を具体的な研究素材に設定している。 2012年度には、研究調査として、夏期に、スウェーデンで燐寸(マッチ)、チェコでガラス装身具に特化して、インドへの輸出事業に関する歴史資料の調査を行った(ただし、これらは2011年度分の補助金の繰り越し的な運用を認めていただいたことによる)。また2013年に入って、イギリス(主に大英図書館)とインドに文書館資料調査と企業家の面談調査とを組み合わせた渡航調査をおこなった。調査の成果としては、スウェーデンでは、20世紀初めにおけるインドへのマッチ輸出や1920年代中葉以降におけるインドでのマッチ製造事業に関するまとまった企業文書資料にアクセスすることができた。チェコでは、欧州向けの高級工芸品とは別に、インドをはじめとするアジアやアフリカ向けの中低層価格帯の腕輪やビーズの産業展開があったことが確認され、それに特化した特定の窯群や家内工業に関する歴史的資料に部分的にアクセスすることが出来た。また、インドでは、特にマハラーシュトラ州文書館で、1920-30年代のマッチおよびガラス工場について、集中的に資料を閲覧できた。また、コルカタでは、ビーディー(葉タバコ)の有力企業家の子孫にアクセスし聞き取り調査を行うことが出来た。 また、研究成果の発表として、論文上の発表に加えて、口答報告を通じた発信にも傾注した。なかでも、2013年3月には、インド人研究者を招待して国際ワークショップを組織し、商品と社会が「消費」を通じて交渉する歴史的動態について、内外の研究者と一緒に国際的な学術交流を深化させた。
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