研究概要 |
平成22年度は、8月にインドネシアとオランダで資料収集を行った。ジャカルタの国立図書館で、1930年代後半のイスラーム系雑誌をあたり、Pedoman Masjarakat, Pandji Islam, Dewan Islam, Islam Rajaを複写した。それとの関連で、ライデンの王立地理言語民族学研究所で、同年代のオランダ領東インドで出版されたメディア(新聞・雑誌)の日本=イスラーム関係の記事をサーヴェイした。また、ハーグの国立文書館では、オランダ領東インド政庁(植民地政府)の秘密報告書のインデックスを通覧して日本のイスラーム・プロパガンダ関係の秘密報告書をピックアップ・収集した。秘密報告書は、原住民問題顧問官や東アジア局長から総督宛の文書が多かったが、そこには情報局のジャワ人官吏からの報告書や、イスラーム系メディアからの記事のオランダ語訳が多く添付されてあった。改めて植民地政府側の情報収集能力の高さを知った。結果的に、イスラーム系メディア、植民地政府文書にある情報を、さらにすでに手元にある日本側の資料(外務省文書あるいは既存の研究)とを突き合わせることができた。日本側のプロパガンダは植民地インドネシアには届いており、ムスリム側は自分たちに関心が向けられているのを認識していた。日本から回教展覧会(1939年)への招待を受けて、イスラーム団体の間では代表団を派遣すべきか否か意見が分かれた。しかし、日本から発信される情報の真偽を確かめるために、イスラーム諸組織の代表団が来日した。日本に対しては好印象を得るものの、日本でイスラームが発展する可能性は低いということを見抜く冷静な判断をしたことが判明した。また、当時のイスラーム系雑誌には日中戦関係の記事も多く、世界情勢に関してはるかに予想を上回る情報量であった。
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