前年度までの研究にひきつづき、本年度も、19~20世紀のユダヤ系ドイツ人中世法制史研究家として、特にアングロ・サクソン法の編纂に功績のあったフェリックス・リーバアマンについて、①東京大学総合図書館の書庫に納められている「リーバアマン文庫」(現在利用できるカタログに明記されないが同「文庫」に含まれると思われる文献をふくむ)に一点一点あたって、正確なカタログの作成にむけた作業を行うこと、その際、扉に書き込まれた献辞などの情報、本文中への書き込みの有無・多寡にも留意する、②①にもとづきリーバアマンを中心とした知的交流の世界の再構成に着手すること、の2点において、成果を得た。具体的に述べると、①に関しては、昨年度までの英語・ドイツ語・フランス語・ラテン語で書かれた文献調査につづき、ハンガリー語、オランダ語、ノルウェー語、オランダ語、イタリア語文献の調査をおこなった。さらに、これまでの調査でチェックできなかった項目や見いだせなかった文献の再調査をおこない、現時点で可能な限り網羅的に、「リーバアマン文庫」を構成する諸文献についてのデータを獲得した。②についていえば、特に今年度の調査では、これまで未見であったヒューバート・ホール関連の史料を見いだせたことが大きい。これは50部しか印刷されなかった珍しい私家版で、ホールの編纂した『財務府の赤本』に対するジョン・ホレス・ラウンドの辛辣な書評へのホールの反論、および当のラウンドの書評と、関連するホールの別の抗議文をあわせて製本されたものである。『財務府の赤本』はリーバアマン自身もよく知る史料であり、彼はホールのテキストに、ホールとラウンドの見解に対する意見を随所に書き込んでいる。ホールがリーバアマンにこの私家版を送ったこと自体とあわせ、当時の中世イングランド史学界を考える上で貴重な史料である。
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