研究概要 |
本研究は、ばらばらになっていた中世後期のジェントリ家系文書史料群を、1家政文書を中心に収集、家系アーカイヴをいわばヴァーチャルに再構築することで、その家系が行った経済社会活動全般を読み解いてゆくケーススタディー的試みである。具体的にはジェントリ家系の経済社会的な活動を見ることができるような、家政会計記録など家政文書史料を残しているエセックスのラングレイ家をえらび、各地の文書館に散在するその家政史料群(とりわけその当主としてのキャサリン・ラングレイ関係史料)を収集して、家系アーカイヴのヴァーチャルな再構築を試みる。その上で、とりわけ社会経済的視点からそれらの史料を分析することで、国内外の中世後期イギリス研究に寄与することを目的としている。 本年度は、ラングレイ家の家政会計簿史料を、なるべく正確に転写(トランスクリプト)することに力を注いだ。そのなかで不明な部分については、折良く来日されたカーディフ大学ピーター・コス教授に意見を伺い、あわせてジェントリのライフスタイルやジェントリ意識の問題などを議論することが出来た。コス教授は、14世紀のジェントリ家政文書の分析をもとに、The Foundations of Gentry Life:The Multons of Frampton and Their World,1270-1370 (London,2010)を上梓されたばかりであり、ラングレイ家の家政史料を読み解いてゆく上で貴重な意見交換となった。たとえばラングレイ家史料にはequus(馬)が登場するが、費用のかかる馬を用いた耕作は商品作物を生産する先進的地域でなければ維持できないという側面を持っていることなどの貴重な指摘を受けた。また11月には、同じく来日されたセント・アンドリュース大学ロバート・バートレット教授の研究会を開催し、意見交換を行うことができた。
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