研究概要 |
本研究は、ばらばらになっていた中世後期のジェントリ家系文書史料群を、1家政文書を中心に収集、家系アーカイヴをいわばヴァーチャルに再構築することで、その家系が行った経済社会活動全般を読み解いてゆくケーススタディー的試みである。本年度は、第一に、ラングレイ家政会計記録(1473-4)のトランスクリプション(転写)のチェックを終え、その史料学的検討及び訳出を行った。本史料は、フォリオ1から10と、フォリオ11から18の2つの折丁からなっている。内容や形状から、折丁1をつくる際に参照したもとの書き付けの一部あるいは購入が多かった時期の部分についての詳細記録として新たに書かれたものが折丁2として作られ、折丁1とあわせて1冊に綴じられ、折丁1に続く内容が折丁2後半の空白部分に書き込まれたと考えられる。監査の際につけられた印(f.4r,lines 43,44の欄外)とともに、ジェントリ家政会計記録がどのように実際には作成されていったのかを、これらの分析により明らかにすることができた。第二に、同類型のジェントリ家政会計記録につき比較検討するために史料収集を行った。昨年度研究上の意見交換を行った、ピーター・コスによる新しい研究(Coss,Peter R,The Foundations of Gentry Life:the Multons of Frampton and their World,1270-1370,Oxford,2010)は家政会計記録や所領会計簿などから14世紀ジェントリの生活様式を明らかにしたものであり、参考文献資料も充実しているため、C.W.Woolgarの研究と共に、これを用いて史料収集を行った。第三に、ラングレイ家政会計記録の史料学的検討および訳出の成果について、西欧中世史研究会(於九州大学法学部会議室、2011年8月28日)および西欧中世史料論研究会(於九州大学文学部、2011年12月17日)で中間報告と意見交換を行った。とりわけイングランド以外のヨーロッパ中世における会計記録に関して貴重な助言を得ることができた。
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